本記事は化粧品も腐る、そして腐った化粧品は危険、というお話です。
コスメ品って腐らないって思ってたわ
ものによっては腐るよ
もうちょい踏み込んで言うと、主に腐るのは化粧品に含まれている「水」ね
この水中で細菌などの微生物がワッチャワチャ増えるケースがあるんよ
ちなみに、こうしたに化粧品まつわる微生物のワチャワチャ問題は、1940年代から報告があるそうな (Tan, et al., 2013; Curry et al., 2006)
マジか……
微生物が大量に増加した化粧品を顔に塗るとか、想像したくもないわ
まあ、そうならないように防腐剤が使われているんだけどね
それでもワチャる報告がちらほらと……
ということで、今回は「化粧品も腐ることがある、そして腐った化粧品は危険」というテーマをもとに、過去にどんな報告があったのかを紹介していきます
記事を読み終わるころには、きっと今まで以上にコスメ品選びに慎重になることになるでしょう
なんか、コスメ沼に「防腐」という項目が加わりそうなテーマだな……
なお、記事の構成は「コスメ沼にどっぷりな助手」と「何事もてきと~なbon博士」のゆるゆる会話です。きっと会話だけでなく、そのロジックもゆる~いことでしょう。内容の真偽は捨て置き、エンターテイメントとしてお楽しみください。
*登場するデータはすべて出典より採用 (文末に記載)。
レッツ、エビデンスの無駄遣い
結論:化粧品も腐ります
さて、結論から言うと、化粧品も腐ります
ちなみにここでの「腐る」は、所定の試験法で化粧品から規定以上の微生物が検出された、ということね
所定の試験法って何?
当局が決めた微生物の検出方法だよ
めっさ長くなるから詳細は省くけど、「化粧品からヒトに仇名す微生物を検出する方法」、って理解でOK (Farrington et al., 1995)
「腐る」イコール、本来は存在してはいけない微生物が
見つかる状態、って感じね
そんな感じ
で、ようやく本題だけど
2003年、ナイジェリアで市販されている化粧品10ブランドを抜き打ちテストしたところ、全部のサンプルから結構な量の細菌もしくはカビが検出されたそうな (Hugbo et al., 2003)
市販品が腐ってた、という分かりやすい例だね
Oh, 化粧品って本当に腐るのね……
てか、腐った化粧品が市販されてるとか、調べたブランドが全滅とか怖すぎでしょ
これって、流通段階で腐ったの?
さあ?
腐る要因ってたくさんあるから特定がムズイんよね
汚染した原料の使用、雑な保管条件、暑い気候、はたまたこれら全部が組み合わさって微生物が大量増殖したとか……
当時の製造元や流通・保管条件は分からんし、どこで菌が増殖したかはナゾだねぇ
化粧品も品質管理が大変そうだな……
化粧品から検出された黄色ブドウ球菌
そういや、さっきの調査で腐っていた化粧品って、具体的には何だったの?
このときの調査対象は化粧クリームとローションだね、どれも「水」入りのやつ
あと、調べた10サンプルのうち9サンプルから黄色ブドウ球菌が検出されたそうな (Hugbo et al., 2003)
黄色ブドウ球菌?
なんか病院で問題になるやつ?
そう、その黄色ブドウ球菌の一種
ちなみに病院で主に問題になるのはMRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)ね
これは抗生物質に耐性をもった厄介な種ですな
その調査で化粧品から見つかったのは、MRSAとは違うの?
さあ?
その後は大騒ぎになってなさそうだし、違うんじゃない?シランケド
そもそも黄色ブドウ球菌って病原性がピンキリなんよ
例えば常在菌なんかはヒトの皮膚やら腸やらに普通にいるし、健全な状態なら感染しない菌株が多いイメージがありけり
じゃあ、化粧品にその常在菌が混入してても別に問題なくない?
問題はあるよ
常在菌とはいえ免疫が弱ってたり、肌にキズがあったら感染する可能性がでてくる
もし皮膚に接触する菌の数がメッチャ多かったら、そのぶん感染リスクも上がっちゃう
というわけで、当局が設定した基準に引っかかる菌量が検出された時点でその化粧品はアウト
ちなみに例の調査では、菌量が一番多かったサンプルには1mLあたり約12,500個のStaphylococcus aureus*がいたそうな (Hugbo et al., 2003)
菌が1mLにいちまんッ!?
化粧品を塗っていると思ったら実は細菌の塊でした、という事例ですな
まあ1個1個の微生物って肉眼じゃ見えないからしょうがないよね~
見た目で分からない?
それって化粧品が腐ってても気が付かないってこと?
菌や化粧品の種類にもよるけど、経験上、細菌の数が1,000個/mLくらいでは見た目や匂いでは気付かないかも
この数値がもう1~2桁増えると、外観上の異常や悪臭で分かりやすいねぇ
菌から出るガスで化粧クリームがプクプク泡立ってたりするよ
ブクブクはさすがに気付くけど、見た目正常で腐ってたらお手上げだな
1,000個/mLの細菌がいても気づかないって、化粧品の腐敗は厄介だわ……
実はあるある? 他にも腐った化粧品が売られていた事例
さっきみたいな汚染した化粧品が売られていた事例って他にもあるの?
あるよ
2005~2018年にEUの31か国を対象にした調査では、微生物に汚染した化粧品が市販されていた事例が104件って報告が出てる (IM Michalek, 2019)
多いのか少ないのかよく分からん数値だな……
そうね、この数値だけ見ると、自分が購入しちゃう確立は低いかも
ちなみにこの事例では、微生物に汚染した104製品のうち約36%からPseudomonas属菌*が検出されてるよ (IM Michalek, 2019)
シュードモナス属菌?
大丈夫な菌?それとも危険?
種類によるねぇ
日本では日和見菌と病原菌のどちらも存在する分類群だよ
ちなみに後者で有名なのは緑膿菌ね、なかでも抗生物質に耐性を持った株は厄介
まぁ病原性の高い低いにかかわらず、シュードモナス属菌がワチャワチャしてたら化粧品としては即アウトですな、健康被害につながるリスクが大ってことで (Tan, et al., 2013)
まあ、病原性があろうがなかろうが、1mLあたりウン万個の菌が入った化粧品を顔に塗るのは勘弁だわ
化粧品を腐らす微生物はどこから来るのか?
さっきみたいな腐った化粧品だけど、もともとの菌はどこで混入してるわけ?
さあ?
ただ一例として、先のEUのケースではほとんどが製造時点で混入してたそうな (IM Michalek, 2019)
これに防腐剤の効きが悪いという不幸が重なると菌がワッチャワチャ増殖するわけですな
てことは汚染してた原料を使った、もしくは製造工場のどこかで菌が混入したってことか
たぶんね、あとは使用者自身が汚染させるケースもあるよ
これは化粧品クリームの例だけど、未使用のサンプルでは無菌だったのに、開封・使用後には約1割の製品で微生物が検出されるようになったという報告があるよ (Behravan et al., 2000)
おそらくはクリームの使用時に菌が混入したんだろうね
助手も鼻をほじった指を容器に突っ込んだらダメだよ
おい、やめろ、誤解を招くだろうが
そういやさ、化粧品に含まれる「水」が腐る一因なら、化粧品じゃなくても「水」がはいった製品は腐る可能性があるわけ?
あるよ
2006年の報告 (たぶんイタリア)では、47種類のバス用品のうち、約11%の製品からブドウ球菌もしくは緑膿菌が検出されたそうな (Campana et al., 2006)
市販製品の1割が腐ってたとかヤバいな、品質管理が雑すぎじゃんかよ
で、どんな製品が腐ってたの?
バスフォーム (洋画で出てくる「泡風呂の素」ね)、シャンプー、液体せっけんだよ
えっ!?
どれも「洗浄」ってイメージがあるのに腐るの?
そうね
だから洗浄系の製品でも防腐剤が使われるのは一般的だよ
例えばコンタクトレンズの洗浄剤とか
なんてこったい……
せっけん・洗剤みたいな製品は腐らないと思ってたわ
ちなみにアメリカの市場調査では、シェービング剤、保湿剤、脱毛剤、フェイスケア製品、メイク落としにハミガキからも菌が検出されとるよ
なかでも一番汚染がひどかったのは保湿剤で、1mLあたり14万個の菌が検出されたそうな(Tan, et al., 2013)
保湿剤に14まんッ!?
もはや保湿どころじゃないな……
防腐剤を入れ忘れたのか、それ
まさかねぇ……
でも防腐剤が入ってても効果が無いこともあるよ
どゆこと?
防腐剤も加水分解したり、化粧品の成分によって相性が悪かったりと、扱いが難しいのよ
もっと言えば安全性を取るか、防腐効果を取るか、はたまたコストを取るかなど、大人の事情もありけり……
ちなみに、アメリカで93個の化粧品やらを調査したところ、このうち14製品の防腐効果が当局の基準に満たなかったという報告もあるよ (Tan, et al., 2013)
防腐剤をケチってたってこと?
それもあるかもだけど、製品開発時の防腐剤の設計が甘かったんじゃない?
ちなみに例の14製品中の5個は、人為的に加えた黄色ブドウ球菌に全く効果を示さなかったそうな
そんときの製品は日焼け止め、脱毛クリーム、シェービング剤に保湿剤ね (Tan, et al., 2013)
こういう話を聞くと、化粧品の成分が合わなくて肌荒れしたのか
腐ったコスメを知らず知らずに使って肌荒れしたのか分からなくなるな……
知られていないだけで、後者は意外とあるあるかもね
腐った化粧品は危険です
さっき話に出た黄色ブドウ球菌や緑膿菌だけどさ
汚染源が病原性のない菌種だったら、腐った化粧品を使っても病気にならないわけ?
人によるかな
健常者だったら結膜炎、おできや毛嚢炎といったお肌のトラブル程度で済むかも (Brannan, 2006)
でも、もしその人に免疫疾患があったらシャレにならんね
実際、緑膿菌に汚染したシャンプーを使用した患者が亡くなったケースが報告されているよ (Geis, 2006)
死亡例もあるのか……
油断は禁物だな
そうね、あと保存容器に直接触れないタイプの化粧品の場合でも要注意な場合があるよ
というのも、マスカラの塗布棒で角膜を傷つけた女性が緑膿菌に感染、視力低下したって報告があるから (Reid and Wood, 1979)
知らないだけで深刻な感染事例があったのね
なんか、防腐剤がガッツリ入った製品が買いたくなってきたわ
ところがだねぇ
防腐剤を入れ過ぎると、今度はヒトの皮膚がダメージを受ける可能性があるからNGなんよ
特に制汗剤や日焼け止めみたく、洗い流さないタイプは要注意(Tan, et al., 2013)
もしかして外国製品のコスメで妙に肌荒れするのって、強烈すぎる防腐剤のせいなのか?
どうかねぇ
たぶん、助手の場合はメイクを落とさずに寝落ちするからじゃない?
……否定はしない
まとめ
今回の内容をおさらいしましょう
本記事のまとめ
- 水を含んだ化粧品・バス用品などは腐る可能性あり
- これら腐敗の主な原因は細菌やカビで、病原性はピンキリ
- 腐った化粧品の使用による被害はおでき~死亡例まで幅広い報告がある
- 化粧品が腐っているかどうか、肉眼での判別は難しい
肉眼で腐敗が判別できないって、対策しようが無くない?
だよね
結局、化粧品は品質管理がしっかりしてそうなメーカーから購入して、取説に従って使いましょう、という結論ですな
というわけで、今回は「水を含んだ化粧品は腐ることがある」というお話でした。
今後は勿体ないからって、使用期限を過ぎた化粧品を使うのは止めようね、助手
防腐剤がヘタってる場合もあるから
……おう、気をつけるわ
本日の出典
- Ayşe Seher Birteksöz Tan, Mayram Tüysüz and Gülten Ötük, Investigation of preservative efficacy and microbiological content of some cosmetics found on the market, Pak. J. Pharm. Sci., Vol.26, No.1, January 2013, pp.153-157
- Farrington JK, Martz EL, Wells SJ, Ennis CC, Holder J, Levchuk JW, Avis KE, Hoffman PS, Hitchins AD and Madden JM (1995). Ability of laboratory methods to predict in-use efficacy of antimicrobial preservatives in an experimental cosmetic. Appl. Environ. Microbiol., 60: 4553-4558.
- Hugbo PG, Onyekweli AO and Igwe I (2003). Microbial contamination and preservative capacity of some brands of cosmetic creams. Trop. J. Pharm. Res., 2: 229-234.
- Brannan DK (2006). Biology of microbes. In: Geis PA editor. Cosmetic microbiology, 2nd ed., Taylor & Francis Group., New York, pp.19-69.
- Lundov MD and Zachariae C (2008). Recalls of microbiologically contaminated cosmetics in EU from 2005 to May 2009. Int. J. Cosmet Sci; 30: 471-474.
- IM Michalek, et al., Microbiological contamination of cosmetic products ‐ observations from Europe, 2005‐2018, Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 33:2151–2157
- Behravan J, Bazzaz F and Malaekeh P (2005). Survey of bacteriological contamination of cosmetic creams in Iran (2000). Int. J. Dermatol., 44: 482-485.
- Campana R, Scesa C, Patrone V, Vittoria E and Baffone W (2006). Microbiological study of cosmetic products during their use by consumers: health risk and efficacy of preservative systems. Lett. Appl. Microbiol., 43: 301-306.
- Geis PA (2006). Preservation strategies. In: Geis PA editor. Cosmetic microbiology, 2nd ed., Taylor & Francis Group, New York, pp.163-180.
- Reid FR and Wood TO (1979). Pseudomonas corneal ulcer. The causative role of contaminated eye cosmetics. Arch Opthalmol., 97: 1640-1641.