本記事は「サイズのデカいヒアルロン酸は、塗るだけではお肌に浸透しない」的なお話です。
前回は「50~130kDa*のヒアルロン酸」を塗るだけでシワの深さを最大で約11%改善した (Pavicic, 2011)、という文献を紹介しました。
難しく考えず、「ダルトンは大きさの単位 (= 数値が大きいほどデカい)」って認識でOK
ところが、どうもこのサイズのヒアルロン酸はお肌に浸透できないようなのです。
その理由はズバリ「デカすぎる」から。
というのも角質層には「デッカイ分子に対するバリヤー機能」が存在し (Jan, 2000)、このデッカイ分子に当てはまる「50kDaのヒアルロン酸」は物理的に浸透するのが無理でしょ、という話なのです。
というわけで、今回はこの角質層のバリヤーについて学んでいきましょう。
なお、記事の構成は「お肌に悩みを抱える助手」と「何事もてきと~なbon博士」のゆるゆる会話です。きっと会話だけでなく、そのロジックもゆる~いことでしょう。内容の真偽は捨て置き、エンターテイメントとしてお楽しみください。
*なお登場するデータは、すべて文末の出典からの採用です。
レッツ、エビデンスの無駄遣い
角質層のバリヤー、その名も”500Daルール”
ヒアルロン酸を塗るだけでシワが改善した (Pavicic, 2011) のに、そのヒアルロン酸が角質層に浸透しないかもって、どゆこと?
お肌の表面、角質層の細胞間にはすき間があるんだけど、そのすき間よりもヒアルロン酸がデカすぎるって話だね
よくみかけるのが、細胞の隙間が15~50nmに対して、ヒアルロン酸分子の直径が3,000nmって報告ね (Balaza, 1984)
すき間に対してヒアルロン酸が60倍もデカい!
物理的に無理じゃん、こんなの
まぁ、普通に考えたらそうだよね
んで、その「塗るだけで改善」の文献で使われたのは50kDaのヒアルロン酸ね
こいつも結構デカい
どんくらいデカいの?
角質層には「500Daルール」てのが提唱されていて (Jan, 2000)、これ以上大きい分子を通さない、いわゆる「バリヤー機能」が働いているのね
対する例のヒアルロン酸のサイズは50kDa (キロダルトン)、つまり50,000Daてことだから、バリヤーが機能する最低ラインより100倍デカい
そんなん、ヒアルロン酸が浸透するわけないじゃん
てか、そのバリヤーってそんなに強固なわけ?
みたいね
例えば、もし500Daより大きいアレルゲンに触れたとしても、それはバリヤー機能で皮膚に浸透しないのでアレルギー反応は起きないんだと
おお、素晴らしいぞ、バリヤー機能
逆にこのバリヤー機能は薬効成分もシャットアウトしてしまうんだと
だから皮膚から吸収するタイプの外用薬は、基本的に500Daより小さい成分に限定されてるそうな (Jan, 2000)
こんな徹底したバリヤー機能なら、大きなヒアルロン酸が浸透する余地はなさそうね
そゆこと
角質層に浸透しないはずのヒアルロン酸、だがそれを塗ったお肌でシワの深さが11%改善したという報告 (Pavicic, 2011)
この矛盾は未だに解けない謎なのだよ、コナン君
確かに謎だわ
ヒアルロン酸を無理くり浸透させる方法|500Daルールの例外
「500Daルール」、つまり角質層のバリヤー機能は50kDaのヒアルロン酸の浸透を妨げる、ここまではOK?
OK
でもさ、それって所詮はルールでしょ?
何か無理矢理にヒアルロン酸を角質層に浸透させる方法は無いの?
ルールは破るためにあるって言うじゃない
(それは戦争を生む発想だよ、助手……)
あるよ
文字通りルールを「破る」方法が、ね
ほうほう、詳しく聞こうか
シワ改善のためなら、多少のルール破りはやむなしだわ
話は単純、バリヤーが邪魔なら無ければいい
例えば、超音波でバリヤーを破壊するとかね
破壊?
なんだか物騒な響きね
そりゃそうだよ
具体的には、属性「物理」の低周波超音波で角質層を攻撃し、空いた穴から色んな薬効成分をぶち込みましょう、って方法だからね
ちなみにこの方法だと皮膚の透過性が数桁オーダーで上がるそうな (Mitragotri, 1995)
これなら50kDaのヒアルロン酸もイケるんじゃない?
うぉい!
ケアしたい皮膚を破壊してどうするよ!
まあ、バランスが大事だよね
「角質層破壊によるマイナス」と「有効成分浸透によるプラス」、トータルで見たらどっちがお肌にとって良いことなのか……
ちなみに、デカい分子でも超音波処理した皮膚の吸収率は100%になるそうだよ
……100%て、それ、角質層は無事なのか?
さあ?
少なくとも「500Daルール」の提唱者はオススメしてないね、上手く物理攻撃を制御できるか懐疑的な感じ (Jan, 2000)
ただ別の研究では「最適化された低周波超音波」を1分間当ててもも皮膚損傷は無かった、という報告 (Chawankorn, 2015)もある (ブタの表皮を使った実験だけどね)
とはいえ、こちらの報告でも処理時間を増やすと皮膚が損傷したそうな
角質層のバリヤー機能だけ破壊って難しいのね
超音波以外の方法ってないわけ?
別の方法、あるよ
お肌に「100Vの高電圧パルス」をブチ当てるって方法が
なんか嫌な予感がする……
ご明察♪
属性「雷」の高電圧パルスで角質層を攻撃し、穴をブチ空ける、その穴を介してデカい分子を通すって方法だよ (Chen, 1998)
特殊加工したヒアルロン酸の透過性が約2~6倍になったそうな (ブタの表皮だけどね)
Chen曰く、ちまたで使われてる「イオン導入法 (イオントフォレーシス)」とはひと味違うみたいね (お肌のどこでも穴を開けられるって点で)
結局、破壊的な方法じゃんかよ!
まとめ
今回の内容をおさらいしてみましょう
本記事のまとめ
- 50kDaのヒアルロン酸は角質層に浸透しなそう (分子がデカすぎて無理っぽい)
- 角質層にはデカい分子を通さないバリアー機能がある (500Daルール)
- このバリヤー機能は超音波や高電圧パルスで破壊できる = 角質層に穴をあけると同義
これってさ、「ヒアルロン酸は塗っただけでは角質層に浸透しない」って結論でいいわけ?
さあ?
ヒアルロン酸のサイズが500Da未満なら浸透するかもしれんよ (そんなコスメ品があればの話だけど)
あとは、スキンケアをサボリまくって、バリヤー機能がボロッボロの哀れな角質層なら通るんじゃない? チラッ チラッ |д゚)
チラッチラッすんな!
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本日の出典
- Pavicic T, et al., Efficacy of Cream-Based Novel Formulations of Hyaluronic Acid of different molecular weights in anti-wrinkle treatment, Journal of Drugs in ermatology : JDD, 01 Sep 2011, 10(9):990-1000
- 吉野健一, 意外に知らない分子量と質量の単位の違い, 生物工学, 2013, 91, 464-468
- Jan D. Bos, et al.,The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs, Exp Dermatol 2000: 9: 165–169
- Balaza EA,. et al., Hyaluronic acid: its structure and use., Cosmetic and Toiletries. 1984:99:65–72.
- Mitragotri S, et al., Ultrasound-mediated transdermal protein delivery. Science 1995: 269: 850–853.
- Chawankorn K. et al., Combination of elastic liposomes and low frequency ultrasound for skin permeation enhancement of hyaluronic acid, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces Volume 135, 1 November 2015, Pages 458-464
- Chen T, et al., Skin electroporation causes molecule transport across the stratum corneum through localized transport regions. J Invest Dermatol (Symp Proc)1998: 3: 159–65.