エリンギは本気を出したらどこまでエレクトするのか|#6 PDA培地をつくるッ

006|エリンギは本気を出したらどこまでエレクトするのか|栽培|培養 きのこ栽培 開発 廃菌床

前回のおさらい

bonよ、エリンギをガチでエレクトさせろ……

生前はあまり顔の合わせることのなかった祖父。その彼の最期の言葉がそれだった (ハズだ)。

疎遠だったとはいえ、血は争えないものだ。

祖父が人生をかけて目指していたゴールは、私と同じだった。

そう、エリンギのガチ・エレクトだ。

亡き祖父の無念を胸に、彼はさっそくアマゾンのHPに飛んだ。そして「カートにいれる」ボタンをポチリまくった。

実験資材を購入するのだ。祖父の無念を晴らすのだ。

彼は狂ったようにポチりまくった。アレも足りない、コレも足りない、と。

このままでは、あの偉大な祖父を超えられない (知らんけど)、と。

こうして実験がはじまり、それが失敗するたびに彼はポチりまくった。

失敗はアレが無いせいだ。コレが無いせいだ。そう言ってポチりまくった。

費用は千を超え、万を超え、いつしか諭吉が分身を始めた

そうしてクレイジーな散財が、いよいよ引き返せなくなったとき、彼はついに寒天培地 (もどき)の開発に成功する。

これでエリンギのクローンが培養できる

彼は喜んだ。そしてさっそく、エリンギ組織を寒天培地にセットした。これがエレクトのオリジンとなるのだ。

210328|サンプル|ポール4|寒天培地|計量|エリンギ栽培|培養|シャーレ|滅菌|寒天培地
培地にセットしたエリンギ・オリジン (予定)

あとは伸びてきた菌糸を採取し、培養すればクローンとなる。

喜びに沸くラボ。しかし、彼は重大なミスを犯していた。

そう、もう一つのキーとなる、PDA培地をつくっていなかったのだ。

PDA培地

ゼリー状の培地。栄養たっぷり

PDA培地 (=エサ)がなければクローンは増殖できない。

それどころか、このままでは寒天培地のオリジンが、お腹をすかせて死んでしまうだろう。

なんせ寒天はゼロ・カロリーなのだ。

そのうえ、シャーレも万能ではない。長期間の放置はご法度なのだ。

うかうかしていたら雑菌がシャーレ内に侵入する。

きっとエリンギたちは、女子供を問わずに蹂躙されることだろう。

ああ、きっとサンプルは全滅だ。

PDA培地を作らなかったばかりに、なんてことだ……。

ラボは閉鎖の危機に陥っていた。

んな大事なもん、忘れんなよ

PDA培地をつくるッ

PDA培地|エリンギ栽培|培養|おがくず培地|ジャガイモ|じゃがいも|男爵|メークイン

やあ、良い子のみんな、こんにちは。

実験資材の支払総額にドン引きしているbonだよ。

いくら使ったわけ?

諭吉でバスケチームが組めちゃう

さて、そんな些末は気にせずに、今日はPDA培地をつくっていこうね。

ちなみにPDA培地は「ポテト・デキストロース・アガー培地」の略だよ。

これは「ジャガイモ」「グルコース」「寒天」という、3つの材料に由来する名前だね。

作製の難易度はスライムベスくらいかな。レシピはこちら。

良い子のPDA培地|材料

・PDA培地の素 (試薬) :3.9ℊ
・蒸留水       :100mL

こんだけ?

そう、こんだけ。所詮はスライムベスですよ。

で・も・ね、ワタクシ、一般人ですから、

試薬 (=PDA培地の素)が買えないんですよぉぉおおお!!

試薬が買えない

一般人は基本、試薬が買えない

またかよ

PDA培地のレシピをアレンジ

お約束とはいえ、「試薬が買えない」という縛りには困ったものです。

なぜって、培地の作製難度が爆上がりするから。

なぜって、市販品で代用すると余計な成分が大量に混入するから。

以前つくった寒天培地だって、うすしお味になってたもんねぇ……。

どうすんの?

まあ、そうは言っても、食べるのは自分じゃないし。カビ (=エリンギ)だし。

劣化版の培地でも喰わせとけばいいんじゃない?

ウチでは、働かない子に食事の文句は言わせません。

ということで、市販品でレシピを組み直してみたよ。アレンジしたのがこちら。

PDA培地 (ver. bon)|材料

・ジャガイモ  :20ℊ
・グラニュー糖 :2g
・寒天     :1.5g
・水道水    :100mL

*有効成分量を表記

よし、完璧。でも市販品で置き換えたせいで、だいぶ劣化した気がするね。

例えば?

例えば、市販寒天は20%がナゾ物質でできてるよ。ついでにも入ってるから、これを使うとPDA培地がうすしお味になるね。

あと「グルコース」を「グラニュー糖」に差し替えるという無茶をしてるよ。

何か問題あるわけ?

酸化ストレスが爆上がり

グラニュー糖

主成分スクロース (グルコースとフルクトースがニコイチとなった構造)

細かいことを全部省いてざっくり言うと、グルコースに比べて糖尿病のリスクがあがったね。

しかも、この子ら基本、喰っちゃ寝で運動も嫌いそうだし。

ダメじゃん

大丈夫でしょ、いうてもカビだし

というわけで、さっそくジャンクなPDA培地をつくっていきましょう。

ジャガイモ汁をつくるよ

02|PDA培地|エリンギ栽培|培養|おがくず培地2|材料|プロトコル|原料
市販品で揃えたPDA培地の材料

ではPDA培地 (ジャンクver.)をつくっていこうね。写真が200mL分の材料ぜんぶだよ。

最初にジャガイモの成分を抽出するね。

皮をむいて、テキトーに刻んだジャガイモを、ぐつぐつ煮ましょう。

03|PDA培地|エリンギ栽培|培養|おがくず培地2|材料|プロトコル|原料3
こんなに泡を吹いちゃって……

ゆで時間は、沸騰してから弱火で10分くらいでいいかねぇ。まあどうせ再現性なんてないし、テキトー

ほうら、お前たちのイヤらしいエキスを全部出しておしまいッ!

やめろ

煮汁をフィルターで濾すよ

05|PDA培地|エリンギ栽培|培養|おがくず培地2|材料|プロトコル|原料3
ろ過はKalitaのFP101コーヒーフィルターに限りますなぁ

ジャガイモの煮汁ができたら、フィルターろ過するよ。これは煮崩れしたジャガイモ片を取り除く作業だね。

ちなみ今回はメークインを使ったから、ぜんぜん煮崩れしなかったよ。

気分、大事な

ホントにエキス出てるの?

さあ?

グラニュー糖と寒天を溶かす

06|PDA培地|エリンギ栽培|培養|おがくず培地2|材料|プロトコル|原料3
煮汁とグラニュー糖と寒天

次は、ろ過したジャガイモ煮汁に「グラニュー糖」と「寒天」を溶かしこむよ。

寒天はこのままだと溶けないので、手鍋で加熱しながら混ぜ混ぜします。

07|PDA培地|エリンギ栽培|培養|おがくず培地2|材料|プロトコル|原料3
昔の糊って、こんなんだった気がする

弱火でコトコト溶かしてゆきましょう。

ん~、なんか、ドロドロしすぎてデンプン糊のようだ。寒天は入れすぎかもですな。

まったく、普通に作っていてもこんなにヌラヌラニチャニチャしてしまうなんて、なんてハレンチな子なのかしらん。

だから、やめろ

滅菌する

材料が全部溶けたら、全体が200mLになるまで水を加えて、PDA培地 (ヌラヌラ汁)が完成ね。

したっけ、この培地には雑菌がいっぱい入っているので、滅菌処理をします。

121℃で20分の熱処理ね

滅菌処理には我が家のオートクレーブこと、圧力鍋を使うよ。

オートクレーブ

実験機器。でっかい圧力鍋のこと。121℃の高温で微生物を駆逐する。家庭用圧力鍋で代用可 (たぶん)

009|210407-寒天培地|計量|エリンギ栽培|培養|圧力鍋|滅菌
オートクレーブ (=圧力鍋)でPDA培地を熱消毒

写真みたく、耐熱性のポリ瓶にPDA培地を入れたら、あとはコトコト煮込んで121℃の滅菌処理をしましょう。

沸騰してから弱火で20分間の熱処理をすれば、雑菌は全員ドゥンされることでしょう。

シャーレに流し込む

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滅菌したPDA培地と滅菌済みシャーレ

さあさ、滅菌処理したPDA培地 (アツアツ汁)ができましたよ。

どうやら熱で酸化したのでしょう。さっきより色が濃くなって、朝いちばんの聖水みたくなったね。

それではこの聖水を無菌操作でシャーレに流し込んでいきましょうね。

無菌操作

雑菌フリーな環境下での作業。クリーンルームなどが一般的

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聖水を流し込んだシャーレたち

ここで雑菌が培地に混入すると、えらいこっちゃです。なのでアルコールランプの近くで作業するよ。

写真のように上昇気流が発生してる火の周囲なら、シャーレのフタを開けても雑菌が入らない (ハズ)よ。

無茶だろ

1個でも成功すりゃ、OK

それから、アツアツ汁は湯気がすごいので、冷めるまでシャーレのフタをずらしておこうね。

ちなみにフタをしたままだと、あら大変。

シャーレ内側が結露でビッチャビチャ、そこから雑菌が混入しちゃうよ。

ちょっと放置しただけでもビッチャビチャの濡れ濡れだなんて、とんだMっ子シャーレですこと。

次は殴る

冷めたら完成

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このうち、何枚が成功しているのだろうか……

PDA培地 (アツアツ汁)が冷めてきたらフタを閉めて、さらに30分くらい放置ね。寒天が固まったら完成だよ。

結局、シャーレ内が蒸気で曇ってるのね

結露してないから大丈夫

完成したシャーレは逆さにしても全然OKだよ。

あとは乾燥防止にビニール袋にいれて、常温保存ね。

1ヶ月はよゆ~で使えるハズ。

ちなみに、雑菌が混入していた場合、3日くらいで目視できるくらいに拡がるよ。こまめにチェックして、感染していたら捨てようね。

腐ったミカンの法則ね

そのころ、寒天培地のエリンギは

というわけで、怪しげながらもPDA培地が完成したよ。

次回はこのPDA培地を使って、ポール氏を増殖させようね。

ポール氏

寒天培地で培養中のエリンギ実験体。クローンのオリジン (予定)

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寒天培地で培養中のポール氏

なんも変わってないじゃん

あれれぇ~? おっかっしいぞぉ~?

培養開始して3日経つのに、ぜんぜん菌糸が伸びてないねぇ。

これは、もしや、ポール氏、お逝きなすったか……

かくして、PDA培地 (もどき)は完成した。しかし、肝心のエリンギ・オリジンは沈黙していた。

このままクローン培養は頓挫してしまうのか?

ラボは閉鎖の危機を迎えていた。