前回のおさらい
bonよ、エリンギをガチでエレクトさせろ……
生前はあまり顔の合わせることのなかった祖父。その彼の最期の言葉がそれだった (ハズだ)。
疎遠だったとはいえ、血は争えないものだ。
祖父が人生をかけて目指していたゴールは、私と同じだった。
そう、エリンギのガチ・エレクトだ。
亡き祖父の無念を胸に、彼はさっそくアマゾンのHPに飛んだ。そして「カートにいれる」ボタンをポチリまくった。
実験資材を購入するのだ。祖父の無念を晴らすのだ。
彼は狂ったようにポチりまくった。アレも足りない、コレも足りない、と。
このままでは、あの偉大な祖父を超えられない (知らんけど)、と。
こうして実験がはじまり、それが失敗するたびに彼はポチりまくった。
失敗はアレが無いせいだ。コレが無いせいだ。そう言ってポチりまくった。
費用は千を超え、万を超え、いつしか諭吉が分身を始めた
そうしてクレイジーな散財が、いよいよ引き返せなくなったとき、彼はついに寒天培地 (もどき)の開発に成功する。
これでエリンギのクローンが培養できる。
彼は喜んだ。そしてさっそく、エリンギ組織を寒天培地にセットした。これがエレクトのオリジンとなるのだ。
あとは伸びてきた菌糸を採取し、培養すればクローンとなる。
喜びに沸くラボ。しかし、彼は重大なミスを犯していた。
そう、もう一つのキーとなる、PDA培地をつくっていなかったのだ。
ゼリー状の培地。栄養たっぷり
PDA培地 (=エサ)がなければクローンは増殖できない。
それどころか、このままでは寒天培地のオリジンが、お腹をすかせて死んでしまうだろう。
なんせ寒天はゼロ・カロリーなのだ。
そのうえ、シャーレも万能ではない。長期間の放置はご法度なのだ。
うかうかしていたら雑菌がシャーレ内に侵入する。
きっとエリンギたちは、女子供を問わずに蹂躙されることだろう。
ああ、きっとサンプルは全滅だ。
PDA培地を作らなかったばかりに、なんてことだ……。
ラボは閉鎖の危機に陥っていた。
んな大事なもん、忘れんなよ
PDA培地をつくるッ
やあ、良い子のみんな、こんにちは。
実験資材の支払総額にドン引きしているbonだよ。
いくら使ったわけ?
諭吉でバスケチームが組めちゃう
さて、そんな些末は気にせずに、今日はPDA培地をつくっていこうね。
ちなみにPDA培地は「ポテト・デキストロース・アガー培地」の略だよ。
これは「ジャガイモ」「グルコース」「寒天」という、3つの材料に由来する名前だね。
作製の難易度はスライムベスくらいかな。レシピはこちら。
・PDA培地の素 (試薬) :3.9ℊ
・蒸留水 :100mL
こんだけ?
そう、こんだけ。所詮はスライムベスですよ。
で・も・ね、ワタクシ、一般人ですから、
試薬 (=PDA培地の素)が買えないんですよぉぉおおお!!
一般人は基本、試薬が買えない
またかよ
PDA培地のレシピをアレンジ
お約束とはいえ、「試薬が買えない」という縛りには困ったものです。
なぜって、培地の作製難度が爆上がりするから。
なぜって、市販品で代用すると余計な成分が大量に混入するから。
以前つくった寒天培地だって、うすしお味になってたもんねぇ……。
どうすんの?
まあ、そうは言っても、食べるのは自分じゃないし。カビ (=エリンギ)だし。
劣化版の培地でも喰わせとけばいいんじゃない?
ウチでは、働かない子に食事の文句は言わせません。
ということで、市販品でレシピを組み直してみたよ。アレンジしたのがこちら。
・ジャガイモ :20ℊ
・グラニュー糖 :2g
・寒天 :1.5g
・水道水 :100mL
*有効成分量を表記
よし、完璧。でも市販品で置き換えたせいで、だいぶ劣化した気がするね。
例えば?
例えば、市販寒天は20%がナゾ物質でできてるよ。ついでに塩も入ってるから、これを使うとPDA培地がうすしお味になるね。
あと「グルコース」を「グラニュー糖」に差し替えるという無茶をしてるよ。
何か問題あるわけ?
酸化ストレスが爆上がり
主成分スクロース (グルコースとフルクトースがニコイチとなった構造)
細かいことを全部省いてざっくり言うと、グルコースに比べて糖尿病のリスクがあがったね。
しかも、この子ら基本、喰っちゃ寝で運動も嫌いそうだし。
ダメじゃん
大丈夫でしょ、いうてもカビだし
というわけで、さっそくジャンクなPDA培地をつくっていきましょう。
ジャガイモ汁をつくるよ
ではPDA培地 (ジャンクver.)をつくっていこうね。写真が200mL分の材料ぜんぶだよ。
最初にジャガイモの成分を抽出するね。
皮をむいて、テキトーに刻んだジャガイモを、ぐつぐつ煮ましょう。
ゆで時間は、沸騰してから弱火で10分くらいでいいかねぇ。まあどうせ再現性なんてないし、テキトー。
ほうら、お前たちのイヤらしいエキスを全部出しておしまいッ!
やめろ
煮汁をフィルターで濾すよ
ジャガイモの煮汁ができたら、フィルターろ過するよ。これは煮崩れしたジャガイモ片を取り除く作業だね。
ちなみ今回はメークインを使ったから、ぜんぜん煮崩れしなかったよ。
気分、大事な。
ホントにエキス出てるの?
さあ?
グラニュー糖と寒天を溶かす
次は、ろ過したジャガイモ煮汁に「グラニュー糖」と「寒天」を溶かしこむよ。
寒天はこのままだと溶けないので、手鍋で加熱しながら混ぜ混ぜします。
弱火でコトコト溶かしてゆきましょう。
ん~、なんか、ドロドロしすぎてデンプン糊のようだ。寒天は入れすぎかもですな。
まったく、普通に作っていてもこんなにヌラヌラ、ニチャニチャしてしまうなんて、なんてハレンチな子なのかしらん。
だから、やめろ
滅菌する
材料が全部溶けたら、全体が200mLになるまで水を加えて、PDA培地 (ヌラヌラ汁)が完成ね。
したっけ、この培地には雑菌がいっぱい入っているので、滅菌処理をします。
121℃で20分の熱処理ね
滅菌処理には我が家のオートクレーブこと、圧力鍋を使うよ。
実験機器。でっかい圧力鍋のこと。121℃の高温で微生物を駆逐する。家庭用圧力鍋で代用可 (たぶん)
写真みたく、耐熱性のポリ瓶にPDA培地を入れたら、あとはコトコト煮込んで121℃の滅菌処理をしましょう。
沸騰してから弱火で20分間の熱処理をすれば、雑菌は全員ドゥンされることでしょう。
シャーレに流し込む
さあさ、滅菌処理したPDA培地 (アツアツ汁)ができましたよ。
どうやら熱で酸化したのでしょう。さっきより色が濃くなって、朝いちばんの聖水みたくなったね。
それではこの聖水を無菌操作でシャーレに流し込んでいきましょうね。
雑菌フリーな環境下での作業。クリーンルームなどが一般的
ここで雑菌が培地に混入すると、えらいこっちゃです。なのでアルコールランプの近くで作業するよ。
写真のように上昇気流が発生してる火の周囲なら、シャーレのフタを開けても雑菌が入らない (ハズ)よ。
無茶だろ
1個でも成功すりゃ、OK
それから、アツアツ汁は湯気がすごいので、冷めるまでシャーレのフタをずらしておこうね。
ちなみにフタをしたままだと、あら大変。
シャーレ内側が結露でビッチャビチャ、そこから雑菌が混入しちゃうよ。
ちょっと放置しただけでもビッチャビチャの濡れ濡れだなんて、とんだMっ子シャーレですこと。
次は殴る
冷めたら完成
PDA培地 (アツアツ汁)が冷めてきたらフタを閉めて、さらに30分くらい放置ね。寒天が固まったら完成だよ。
結局、シャーレ内が蒸気で曇ってるのね
結露してないから大丈夫
完成したシャーレは逆さにしても全然OKだよ。
あとは乾燥防止にビニール袋にいれて、常温保存ね。
1ヶ月はよゆ~で使えるハズ。
ちなみに、雑菌が混入していた場合、3日くらいで目視できるくらいに拡がるよ。こまめにチェックして、感染していたら捨てようね。
腐ったミカンの法則ね
そのころ、寒天培地のエリンギは
というわけで、怪しげながらもPDA培地が完成したよ。
次回はこのPDA培地を使って、ポール氏を増殖させようね。
寒天培地で培養中のエリンギ実験体。クローンのオリジン (予定)
なんも変わってないじゃん
あれれぇ~? おっかっしいぞぉ~?
培養開始して3日経つのに、ぜんぜん菌糸が伸びてないねぇ。
これは、もしや、ポール氏、お逝きなすったか……。
かくして、PDA培地 (もどき)は完成した。しかし、肝心のエリンギ・オリジンは沈黙していた。
このままクローン培養は頓挫してしまうのか?
ラボは閉鎖の危機を迎えていた。