本記事は【深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」】に行ってきたレビューです。
深堀隆介といえば金魚、金魚といえば深堀隆介の、あの深堀隆介氏の展覧会です。
たまにWebとかで見かけるけど、立体的な金魚を描く作家さんだっけ?
そだよ
透明なエポキシ樹脂*1を用いた新技法「2.5D Paining*2」の創始者さん
この技法で描写された金魚は、まるで今にも泳ぎ出さんばかりのリアルっぷり
というわけで、本記事では深堀隆介の作品約300点が展示された壮大な展覧会のレビューとして、その魅力をお伝えしたいと思います。
主な魅力3点はこれらね
・進化しつづける作品
・不屈の遊び心
・見えるぞ、私にも水が見える
ということで、本記事を読んだが最期。
深堀隆介ワールドにずぶすぶとなったアナタは金魚の魔力に魅せらせ、取る物も取り敢えず近所のペットショップに駆け込ことでしょう。
それではアート (?)なお時間をお楽しみください
魅力①|進化しつづける作品
魅力の一つ目が「進化しつづける作品」?
これはどういうこと?
先に挙げた「2.5D Paining」の描写法はまだまだ発展途上ってこと
そして途上ゆえに、作品のクオリティがどんどんと上がっていくのがワクワクするってこと
例えば上の写真、枡と金魚をコラボさせた「金魚酒シリーズ」の一つなんだけど、リアルっぷりがすごいじゃん?
でも会場には初期の作品も展示されてて、それらはもっと平面的でのっぺりしてたの
こういった作者が成長していく軌跡が見える展示はクオリティ以外の背景も味わい深くて好き
「あんなに拙 (つたな)い立体感しか無かったあの子が、今やこんなに立派になって……」的な楽しさが良きですな
なんか、孫の成長を見守るおじいちゃんみたいだな
でもなんか分かるかも
人間、20年も技術磨きを続けていると、作品に「人を感動させる何か」が伴ってくるものなんだなぁ、としみじみしちゃったよ
しかもこの技法、すごいのはリアルな金魚だけじゃないの
キャリアを積むにつれ、エポキシ樹脂を波立たせて「水面に波紋を描く」といった、派生スキルがどんどん出てくるわけ
初期ではのっぺりしてたタダの水面が、ゆらぎという動きを見せ始めるのね
まさか金魚の「周辺環境」にも応用できる技法とは思いもよらなかったよ
まったく、あのオリジナリティは一体どこまで伸びるんじゃろうか、ワシゃ、正直あの子が恐ろしい……
今日はいったい何キャラなんだ……
とにかく
新しい技法ゆえ、今まで見たことのない表現方法が楽しめるわけね
単に「精巧でリアルな金魚」だけにとどまらず、「未発見だった芸術」って要素が含まれているのは魅力だわ
魅力②|不屈の遊び心
さて、2番目の魅力はこちら、「不屈の遊び心」だよ
遊び心は分かるけど、なんで「不屈」?
作品群を鑑賞していると作者が苦心しただろう「試行錯誤」の数々が感じられるから
これらを総称するなら「不屈」が相応しいかな、と思ったんよ
例えば、金魚を描く素材として、エポキシ以外にも紙・木・Tシャツなどが採用されているのね
これらはもちろん樹脂みたく透明じゃないから多次元化できないんだけど、それでも「何とか金魚を立体表現してやろう」という意思が感じられるわけ
例えば上の写真、キャンパスを壁から飛び出させた作品がその一例ね
こうした未開の芸術に向かっていくフロンティア精神って、見てるだけで「自分も頑張ろう」って思わせる不思議な魅力があるんだよね
人が失敗を恐れずに行動する姿は見てて心地良いもんな
この作者の姿勢は、次へ次へと転職を繰り返すbonと少し似ている、か?
ふふふ、勇気と無謀は異なるのだよ、助手……
その点、この作者は勇気を上手く作品の魅力に昇華させているのがすごいよね
例えば、茶碗や桶、和ダンスの引き出しといった雑器にエポキシを流し込み、そこに金魚を泳がせる作品群は見ものだよ
「使い古された雑記の哀愁」と「金魚の和な雰囲気」がしっくりコラボするんよね
「和ダンスの引き出し」に金魚が泳ぐのか……
その発想もすごいが、実際にやっちゃう行動力が計り知れないわ
だよねぇ
あとは逆さにした番傘、そこに溜まった水 (エポキシ)に泳ぐ金魚、という作品も印象的だった
とにかく水が溜まるという「器」の条件が揃えば、どんな雑器にでも金魚を描いてやろう
そんな貪欲な創作意欲が感じられて気持ちよかったね
そこには「次は何を見せてくれるんだろう」っていう楽しさがあるんよ
意外性の連続と新作の期待感が繰り返されるのか
そりゃハマるわ
意外性の例を挙げると、ココナッツサブレ (日清食品グループ)のプラ容器がそうだね
あのお馴染みの容器をかたどった水 (エポキシ)に、3匹の出目金が鎮座してる作品だったよ
まさかあの身近なお菓子まで水槽になろうとは
しかも作品名が「ココナッツデメサブレ」という意外性もありけり……
創作意欲と遊び心はともかく、そのネーミングセンスはどうなのよ
魅力③|見えるぞ、私にも水が見える
魅力の3番目は「水が見える」ってことだね
ほう、詳しく聞こうか
まず、人が見える光 (可視光)だけど
JIS(日本産業規格)では、その可視光の範囲を360~830 nmの波長と定義しているのね2)
この波長に対して水は、605nm, 660nmそして760nmに光の吸収帯があるの3)
んで、これら吸収帯は光から赤色の波長だけ吸収 (≒亡き者に)しちゃうのね
すると水中には青色の波長だけが残るわけ
その結果、人の目は残った青色波長を捉え、水は青く見えるんだ
……という光の仕組みは、魅力の3番目と関係ないよ
おう……続けろ
ただし、あと一回やらかしたら、埋める
はい
話を戻して、「水が見える」という魅力だけど
深堀氏が描いた金魚が泳ぐ様、その精巧でリアルな姿から金魚周辺の「水の流れ」が見て取れるって意味ね
もちろん作品自体は静止画なんだけど、金魚の周りの透明な空間には流れの向き、速さといった情報が大量に詰まっているの
エポキシ自体は透明で見えないけど、そこには水流の情報が盛り込まれているのか
そう
例えば、「百済」と命名された作品は「水を流し出す桶」に沢山の金魚が描かれているのね
で、その水 (エポキシ)と一緒に流されないよう、金魚たちは滝登りをしている
その滝登る必死な姿から、ザバザバと流れ出る水が「見える」って感じ
「百済 金魚」でググるとみられるよ
実際は見えないけど「分かる」のか、なんかすごい表現方法だな
作者曰く、”水でないものを水にみたてる”のが一つのテーマなんだって
エポキシだけでなく、紙、木、段ボールといった素材も水に置換しようと挑戦してたよ
んで、下の写真は展示会のラストの作品”僕の金魚園”なんだけど、これは「空間そのもの」を水にみたてたそうな
さながら、「水中の夜店」ですな
会場の空間、要は空気自体を「水」として表現したのか
発想の意外性もここまでくると凄いな
だよね
作者曰く、”金魚を見る側から金魚にみられる側になる、そんな空間構成になっています”だそうな
まあ実際は、屋台のクオリティが凄すぎて空間そっちのけ
店内ばかりをガン見してたよ
ずっと「久々に金魚すくいしたいわぁ~」ってキャッキャッしてた
確かにこの屋台のリアルさはバヤイわ
居ないはずの店主のオッサンも見えてきそうだもの
まとめ
今回の内容のおさらい
本記事のまとめ|深堀隆介展の魅力
- 進化しつづける作品
金魚のクオリティが上がっていく楽しさ - 不屈の遊び心
金魚酒、絵画、雑器に夜店、意外性と挑戦のコラボに好奇心がとまらない - 見えるぞ、私にも水が見える
何もない空間に見える「水」の不思議
金魚の泳ぐ様子で周囲の「水流が見える」ってのは、新鮮な気づきだよな
ほんとだよね
実は水流だけでなく「水温」「匂い」「季節」などが感じられる作品もあったんよね
また展示会があったら、是非ともこの不思議体験を共有してほしい所存
おまけ|可愛いすぎて買うてもうた
きれいな顔してるだろ……飴細工なんだぜ、これで
ほっぺといい、表情といい、何ともいえない佇 (たたず)まいの金魚*だな
たぶんこれ、一生使わんトリビアだわ……
そう?
でもスイホウガンって、その抜けた顔とは裏腹にほ乳類に変わる免疫動物として期待されてるみたいよ
額田 (2017)の報告では、ほっぺに抗原 (ヒトLGR ファミリータンパク質3)を注射して、人工的に抗体を作らせることができたそうな5)
要はお薬の開発に応用できるスペシャルなアニマルかもってことね
何言ってるか分からんけど
有益さは見かけによらんことは分かった
参考文献など
1) 深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」公式HP
2) JIS Z8120 2001, 光学用語: 01.01.04 可視放射, 可視光, 可視光線: https://kikakurui.com/z8/Z8120-2001-01.html
3) Why is water blue?, Reproduced from J. Chem. Edu., 1993, 70(8), 612
4) 岩田松村 貴晴靖宏, スイホウガンの水疱内液の成分, 愛知県水産試験場研究報告 (17), 1-8, 2012-03
5) 額田夏生, コイ科魚類を用いた抗体生産方法の開発, 三重大学大学院生物資源学研究科, 博士論文, H29